東京都が都独自の児童手当に続き、私立中学校に通う家庭にも補助金を出す政策を打ち出しました。これに賛否両論、たくさんの意見があがっています。

 先ず公立中学に進学すれば授業料はありません。義務教育だからです。ですが私立に通えば、当然ながら授業料がかかります。これを補助する必要があるのか、という議論です。

反対派の意見。私立中学に通おうと思う家庭は、それだけ収入があるから進学できる。金持ちに補助を出す必要はない、という意見です。
逆に賛成派は、お金持ちの家は、それだけ収入もあれば税金だっていっぱい払っている。高い税金を払って、なおかつ授業料を負担するのは不公平だ、と言う意見です。

 20年くらい前でしょうか。アメリカでもこのような制度について、盛んに議論された事があります。アメリカは徴兵制があり、大学生が大学を休学して軍隊に行く。除隊後、基地の近くの大学に通えるよう、どこの大学でも使える教育キップ(金券)を支給したのが始まりと聞いています。通称「GIビル」と呼ばれていたそうですが、それを広く一般にも使えるようにした。これが教育にかかる費用を公平化するための「バウチャー制度」の基と言われています。

 当時のアメリカの義務教育は、私学(だいたいがキリスト教の団体がたてた学校だったようです)の方が学力が高く、公立は荒れ放題だったらしいです。「暴力教室」という映画では、先生が黒板に数式を書いていると、その黒板にナイフが投げられる、というシーンがあったのを覚えています。
本当にそうだっかは知る事ができませんが、かなり悪い状態だったようです。

そうなると、今回の日本での議論と同じく、お金があればより良い教育環境の中で学ばせたい、という家庭が出てきても不思議ではありません。お金のある家庭は、税金も多く納めます。その税金の中から公立高校の費用も支払われます。公立高校の授業料を負担した上で、私立学校の授業料を負担するのは二重課税と同じではないか、という理論です。

 この妥協案として公立学校の授業料と言うか、学校維持費と同額の金券(教育キップ)を支給する。そのキップを公立学校に納めれば、自己負担なし。授業料の高い私学に行きたい場合は、私学の授業料から教育キップの額面分、授業料を安くする、というバウチャー制度でした。実際にカリフォルニアを中心に、いくつかの地方で行われたそうです。日本でもこの制度、真剣に論議された事があります。

 そしてこの問題、日本では幼保の格差として取り上げられていた時期があります。保育園の場合、保育料は保護者の前年度の所得によって変わります。0歳児の場合、国の基準をそのまま使うと仮定した場合、当時でも月5万円以上でした。ところが各市町村、「そんなに高額の保育料を徴収する事はできない」と独自に減額する条例を作ります。本当は5万円の保育料を2万円でいいですよ。差額は市が負担します、という形にします。保育園は福祉だから、という理屈なのですが結果として高額納税者に補助金を支給する形になります。

ところが幼稚園の補助を見るとお寒い限り。幼稚園は教育である。福祉ではない。教育は自己負担が原則、という考えです。「就園奨励費」という保護者向けの補助金があるのですが、これが所得制限があり、税金をたくさん納めている方は「対象外」でした。
保育園の場合は高額納税者になればなるほど高額の補助金が出され、幼稚園は高額納税者は何も出ない。この差をなんとかするべき、。不公平だ、と問題になったことがあります。市は「幼稚園と保育園は目的が違う。単純な比較はできない」といいつつ、保育園の保育料を2万円にした理由を聞くと「そんな高額な保育料を徴収している幼稚園はないから」という説明でした。ある時は「幼保は別物」。ある時は「幼稚園を引き合いにだす」典型的な二枚舌。怒りを通り越してあきれてしまい、次の言葉が出なかった記憶があります。
私も若かったので「法の下の平等をうたった憲法違反の悪しき制度。何とかして欲しい」と連合会を通じ、県や市に陳情した事もありました。

今でこそ幼児教育の無償化となり、幼保の格差も保育料の問題も一段落しましたが、やはり「教育にはお金がかかるなあ」という事は思います。ただ、税収があって自前の政策が実行できるのもお金のある「東京都」だからできる事。東京の場合は私学がないと生徒を吸収しきれない。新たに公立を作る事が難しい、という事情もあります。状況が違うだけに、これを足利市でやって欲しい、と言っても無理でしょう。これも地方格差という事なんでしょうか。こんな事が続くと、地方の過疎化。東京の一極集中に拍車をかけそうでちょっと心配しています。