このブログをご覧の皆様も、ニュース等で紹介されていましたのでご存知かと思いますが、こども誰でも通園制度が本格的に稼働することになりそうです。

  今まで、幼稚園は保護者の就労の有無にかかわらず通園できますが、教育機関であるため「満3歳以上」に限定されます。保育園は、保護者の就労支援をするための施設なので、0歳から入園できますが、「保護者の就労」という制限が設けられています。では、保護者が就労していない場合、お子様の年齢が満3歳未満の方々は、どこにも行き場がない事になります。

  そこで旭幼稚園では30年前から育児支援の観点から就園前のお子様と保護者の方々のために、マザーグースというサークルを運営していました。週1回の開催ですが、始めた頃は、この種のサークルが全くなく(両毛5市では初めて)、市内はもとより栃木、佐野、太田、桐生、邑楽町と広範囲の皆様にご利用していただきました。開設した当初は「旭幼稚園さんは余裕があるねえ」と皮肉か?と思うような事を言われましたが、だんだん「入園前の親子に来てもらえたら、園児獲得につながる」と言った誤った認識から、各幼稚園・保育園で同種のサークルが開催されるようになりました。

 保護者の方の近くの園でサークルが開催されたら便利にはなりますが、入園を前提のサークル。差別化するために「旭幼稚園より安い参加費」をうたうような、粗製乱造のサークルが増えてしまった事は残念です。この種のサークルは「幼稚園の持つ機能を地域に還元するためのもの」と思っていただけに、質の低下を危惧していました。実際に「この程度ね」と思われてしまった面もあります。ですから、この「こども誰でも通園制度」が、育児支援サークルと同じような末路をたどってしまう心配があります。

  この制度、先ず内容を見てみると、誰でも・理由を問わず・予約なしに参加できる、というメリットがあります。費用も(現在の試案では)300円程度と、非常に安価です。ですが、実際にこの制度が稼働し始めるとしたら、多くの懸念が予想されます。
  先ず、お子様だけが登園する訳です。0歳から利用できるので、落ち着いて園にいてくれるものでしょうか?必ず泣くでしょう。幼稚園に入園する時も「一日目は2時間程度。2日目にちょっと時間を延ばして、おやつを食べて降園。3日目は午前中。4日目にお昼を食べて。5日目にお昼寝して降園」と言った感じで、少しづつ慣れるよう、無理なく生活できるよう配慮し、園児さんの様子を見ながら徐々に時間を延ばしています。でも、こども誰でも通園制度では、いきなりポーンと預ける事ができます。落ち着いて園で過ごせると思いますか?初日は大泣き。先生1人がつきっきりで対応しないと無理。泣きつかれて寝る。こんな絵が想像できます。

 こども誰でも通園制度は、月10時間程度の利用を想定しているようです。現在、全国いくつかの地区で試験的に運用しているようですが、月10時間以内、という上限に対し「月に10時間なんて、ちょっと預けたら終わりじゃない!何を考えているの!」という苦情が殺到して、10時間以上でも良い事になったそうです。また、試験的に運用している地区では予約制をとっているそうですが、直ぐに埋まってしまい、本当に必要な時に使えない、という事が言われています。現在はやっている所が少ないから、希望が集中してしまう、という事もあるのでしょうが…。

 私は子どもの視点が抜けているような気がします。幼稚園の主役は園長でも担任でもなく「こども」だと思います。子どもが安心して、気持ちよく過ごせる時間と空間を保証してあげる事が一番だと思います。そして、その生活空間の中で、同年齢の子どもとかかわる経験を通じ「社会性」を育てる。様々な体験を積む。この経験が小学校以上の学習の基礎となる。こう考えています。私たちは「根っこ」の部分を育てる所だと思っています。その意味からも「親にリフレッシュする時間を提供するために」「誰にも幼児教育を受ける機会を保証するため」等々、なるほどと思える理由は掲げてありますが、全て「大人」を主語にしているように見えます。私は「子ども」の視点からの論議が薄かった点に対し、一抹の不安を持っています。

  旭幼稚園はこども誰でも通園制度、使うか?と言われると先ず定員が空いていないので、ちょっと無理かも知れません。可能性があるとしたら、満3歳入園のお友達が入園するまでの期間になると思います。実際に受入れしてからの事になるとは思いますが、いつ・何人利用していただけるのか。全く予想ができないのに、2名の先生を確保しておけるか、という財政上の問題もあります。

  この制度、もう少し時間をかけて制度設計し、少しは現場の意見も聞いてから進めて欲しかったなあ、と思っています。